方法論

方法論

Mapseagarssは、人工衛星に搭載された光学センサーにより観測されたリモートセンシングデータを活用し、海底情報を分類するクラウドツール「Seagrass Mapper」を提供しています。このページでは、「Seagrass Mapper」の構築手法の概要を説明します。ここで紹介する手法は、小松ら (2020)に記載されているものを参考にしています。Seagrass MapperやSeagrass Trainerで作成したマップを公開する場合は、その方法論についてこの論文を引用し、Mapseagrassプロジェクトを承認してください。

光は電磁波であり、その真の単位はW m-2 ster-1 µm-1で、広範囲の波長からなります。衛星画像には一般的に可視域と短赤外域が含まれています。可視域は、表面の薄層に吸収されやすい紫外線や短赤外線に比べて、海中深くまで浸透することができます(Kawaharaら、2000)。そのため、可視域は海中の沿岸海域の生息域マッピングに利用されています。海では、青色、赤色、緑色の帯のうち、青色帯が最も浅いところから最も深いところまで達します(図1)。

図1.紫外線と赤外線の間の光が水に垂直に浸透するパターン(出典:http://www.seos-project.eu/modules/oceancolour/oceancolour-c01-p07.html)

人工衛星によるリモートセンシングは、搭載された光学センサーによって受信された海底からの可視域の放射輝度を利用します。太陽から衛星センサーへの可視域放射の流れは、図2の概略図に示されています。太陽からの可視域放射は、大気と水の2つの層を通過します。どちらの層でも、光の一部は分子や微粒子によって吸収・散乱され、太陽から海底へ、海底から衛星へと届きます。光の一部は海面でも反射します。衛星センサーがデジタル・ピクセル数として記録する可視域の輝度には、底質の種類に応じた海底反射率が含まれています (図2)。このため、浅い海底面での可視域の反射率の違いから、底質の種類を分類することができます。一般に、衛星に搭載された光学センサーは、青、緑、赤の三つの色帯を検出しますが、各色帯の分光分布は光学センサーによって異なります。青色の帯は深海の海底の種類を検出するのに重要です。

図2.大気層、海水柱、海底面を通過する太陽から衛星センサーへの電磁放射の通過の概略図

反射率とは、底質の表面での特定スペクトルウィンドウの入射に対する反射の比率です。図3は地中海の砂と海草の一種Posidonia oceanica L.の紫外線から赤外線までの反射率を示しています。それらの可視域の反射率の違いがわかります。砂は短波長から長波長に反射するため、色は白色です。一方、海草は 550 nm付近の緑色の帯を反射して色は緑です。反射率の違いが人工衛星の光学センサーのスペクトルウィンドウに応じて存在すれば、底質の種類を判別することができます。

図3.各底部での波長の反射率レベル (Mahares) 。値 (太線) は平均値で示される (±標準偏差は破線) 。各底部、n=5。(出典:佐川ら、2010)

衛星の光学センサーは海草の放射輝度をとらえることができますが、その放射輝度はその過程で大気層や水柱の影響を受けます。したがって、衛星のセンサーで撮影した画像を用いて海草の生息域をマッピングする前に、大気と水柱の影響を取り除く必要があります(Gaoら, 2000; Lyzenga, 1978; Mumby and Edwards, 2000; Sagawaら, 2010)。国連環境計画の地域海プログラムの一部である北西太平洋行動計画(NOWPAP)、および政府間海洋学委員会の西太平洋域小委員会(IOC-WESTPAC)の沿岸生息域マッピングのための海洋リモートセンシングプロジェクト(ORSP)は、Lyzenga (1981)によるDI指標(DII)と佐川ら(2010)によるBR指標(BRI)という二つの最も単純な方法(小松ら, 印刷中)を用いて、大気と水柱の補正を共同で標準化しました。補正方法の詳細については、前述の文献に記載されています。より高度な補正法もありますが、対象海域を撮影する衛星と同期した現地調査で得られる他のデータなど複雑な処理を必要とします。

放射量補正後、生息域は衛星画像データから解析によって抽出されますが、これにはピクセルベースの分類とオブジェクトベースの分類があります(小松ら、準備中)。沿岸域の生息域マッピングでは、前述の放射量補正後の衛星マルチバンドデータに対して、教師つき(supervised)分類または教師なし(unsupervised)分類からなるピクセルベース分類を適用するのが一般的です。海草マッピングのためのほとんどの分類は、衛星マルチバンド画像のピクセルベース解析を用いて作成されています。これらの分類には教師つき分類と教師なし分類があります。ピクセルベースでは、対象領域内のすべてのピクセルのスペクトル特性を分析します。各分類カテゴリーの底質タイプの分布に関するグランドトゥルースデータが必要とされます。グランドトゥルースデータが入手できない場合は、教師なし分類を使用することができます。教師なし分類では、ISODATAなどの統計的基準により、底質反射率が類似するいくつかのカテゴリーにピクセルをグループ化し、処理後、適したクラスにまとめます。教師なし分類をもとに、グラウンドトゥルース調査や現地調査を効果的に行うことができます。

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