2011年3月に発生した東日本大震災では、本州の東北沿岸を中心に地震と津波が発生し、特に震源地に近い三陸沿岸では、漁業・養殖施設や沿岸環境に大きな被害が出ました。 村田ら(2021)は、リモートセンシング技術を用いて、三陸・長面浦の藻場やカキ養殖いかだの回復過程を明らかにすることに成功しました。
本研究によると、長面浦では津波により海草藻場が完全に消滅しましたが、2013年以降は藻場の面積が拡大しました。現地調査の結果から、津波により浦口部が拡大したことで海水の交換が進み、長面浦の水質が改善したことが分かっています。また、2011年の津波後に、この水質改善とともに、カキ養殖いかだに吊るすカキ塊の付いたロープの間隔を広げる新しい養殖方法を導入して養殖カキの数を減らしたことで、海底に排出される有機物が減少し、カキの生産量が増加したほか、藻場も拡大しました。
津波が発生する以前は数年に一度、養殖カキの大量へい死が発生していましたが、津波後には発生していません。大量へい死は、底層水の貧酸素水塊が原因ですが、これは、海底のバクテリアによってカキが排出した有機物が分解される、および/または新北上川からの高濁度水が流入することで発生すると考えられます。津波後の海底環境と海水の透明度が改善したことで、長面浦内の海草の生育が促進されました。
海草は付着した珪藻類の基質となります。珪藻類は成長すると海草から剥離し、カキはこの剥離した珪藻を食べます。また、海草は酸素を供給したり、栄養塩を吸収することで海水の透明度を高めたり、有毒な渦鞭毛藻の成長を阻害するバクテリアを保有しています。したがって、長面浦において、海草は富栄養化が発生しない程度の数の養殖カキと共生関係にあると言えます。
興味深いのは、専門的な科学知識がなくても、衛星やUAVの画像を活用することで、長面浦の空間的・時間的変化を明確に把握することができることです。例えば、UAVから撮影された画像から海草藻場の分布やカキ養殖いかだの数と分布、さらにはカキ養殖いかだに取り付けられたカキ塊を吊るすロープの位置まで確認することができます。このように可視化した情報から意思決定者及び利害関係者は現場で起きていることを容易に理解し、今後の対策を検討するのに役立てることができます。
本研究は、リモートセンシング技術の有効性を示すものであり、「リモートセンシングは、沿岸生態系の保全や養殖の管理に貢献することで、沿岸水域の持続可能な開発のための実用的かつ不可欠なツールである」と結論づけています。論文全文はこちらからご覧いただけます。 (こちらをチェック)